一つひとつの地域が自分の魅力に目を向け、発信することで、日本全体がもっと豊かになる──。そんな想いから、とことん地域に根ざした経営を行う企業があります。日本における「熟成肉」のパイオニアとして知られるブランド・格之進を運営する、株式会社門崎です。岩手県一関市の小さな焼肉レストランからスタートし、現在は「一関と東京を食でつなぐ」をビジョンに全国9店舗を展開する格之進。その経営哲学はいかにして培われてきたのか、そしてふるさと納税にどのように取り組んでいるのか? 「肉おじさん」として親しまれる代表・千葉祐士さんの考えの根っこを深掘りします。
厳選したお肉を一頭で仕入れ、
絶妙に配合したハンバーグ
「世界で一番、お肉に真剣でありたい」という格之進。そのこだわりは、ひとつのハンバーグをつくりあげるのにも遺憾なく発揮されています。「一般的なハンバーグは、精肉を出荷したあとに残る端材でつくられることが多いのですが、格之進では焼肉としても美味しく食べられるクオリティの5種類の部位を丁寧に組み合わせてつくります」と千葉さん。脂ひとつとっても、融点により焼いている途中に溢れて外側に纏われるもの、焼き上がってお皿で割ったときに肉汁として出るもの……すべてを計算し尽くしているというからおどろきです。
また、できあがりの食感を左右する「こね」の時間や回数は一律に決めず、その時々の肉の状態により、人の目と手で見極めます。そして完成した味や食感と、自分のイメージとのギャップがないかどうか、こまめに試食して微調整するのです。
決して安くはない黒毛和牛や、花巻市のブランドポーク・白金豚を原料にしたハンバーグですが、それでも従業員の試食を惜しまないのは、ひとえに美味しい商品を届けるため。箸を入れるとじゅわりと肉汁があふれ出し、ふんわりとした柔らかさとお肉らしい食感のバランスが絶妙にとれた「究極のハンバーグ」は、こうした数々のこだわりからつくられています。
日本は多民族国家?
ふるさと納税を通じて魅力を再発掘
格之進のハンバーグは、一関市のふるさと納税返礼品としても人気の商品です。一関市が本格的にふるさと納税に取り組み始めたのは、制度開始から10年後の2018年。「もっと早く始めたらいいのにと思っていた」と千葉さんは当時を振り返ります。だからこそすぐに市の職員と連携し、ハンバーグを人気の返礼品にするべく試行錯誤を重ねてきました。
2023年度の実績では、一関市のふるさと納税受け入れ額は14・62億円。全国で1700を超える自治体のなかで174位と、突出こそしていないものの、着実に実績を積み上げています。2022年には一関市として、ふるさと納税で得られた寄付金を財源に、農業、工業、商業問わず幅広い産業に対して返礼品の開発費用を補助する補助金を設立。また翌年には、寄付者に返礼品を送るかわりに地元産の食材を全国の子ども食堂に届ける取り組みが、「ふるさと納税の健全な発展を目指す自治体連合」から優秀事例として表彰も受けました。
こうしてふるさと納税を中心に、一関の魅力を日本中に伝え、集まったお金を地域で循環させる取り組みが進んでいる現状を、千葉さんは好意的にとらえています。その背景には、「日本は今こそ、それぞれの土地に根ざした魅力にもっと目を向け、地域に暮らす人々の力でそれを再構築し、発信していかなければならない」という強い想いがあります。
重要なのはお金ではなく、
自分の「考え方」と「あり方」
千葉さんがこのような考えに至るきっかけとなったのは、東日本大震災でした。当時、業績不振により廃業寸前にまで追い込まれた格之進。そんななか、事業で得た利益を世の中に循環させることに本気で取り組んでいる震災ボランティアの人々と出会ったことは、千葉さんにとって大きな経験でした。
「企業は自分の利益のためにあるのではない、社会の『公器』なんだということを本当の意味で理解しました。会社を存続させ、成長させ、社員を雇用させていただけることがどれだけ幸せか、そして地域に貢献することがいかに重要かを身をもって知ったのです」。
そこからは、できる限り地元の食材をつかい、志を同じくする生産者と協働したいと考えるように。ハンバーグの原料となる食材の生産者には、パン粉をつくるための小麦の農家に至るまで、直接会いに訪れます。本社兼工場は、千葉さんの母校でもある旧門崎小学校を改装してつくりました。
「重要なのはお金ではなくて、自分の考え方とあり方、思考と言動なんだと気づいたんですよ。事業を何のために、どうやるのかという考え方と、言葉と行動が一致して、人から信用してもらえるようになりました。利己主義的な考え方を捨てたことで、魅力的な方々とどんどんつながれるようになったんです」。
現在の財務状況は決して安泰ではないなか、それさえも直接お客さまに発信しているそう。それは、格之進の商品を食べることで「会社に投資してくれている」お客さまに対して、状況をありのままに伝えることが大切だと思っているからです。
丹精込めてつくり上げたハンバーグを、千葉さんは「ひとつの小宇宙」と表現します。
「牛はお肉になった段階で死んでいると思うかもしれないですけど、じつはめっちゃ生きてるんですよ。だから熟成するんです。お肉だけでなく、たまねぎも、卵も、パン粉になった小麦も、みんな生きている。そして、それには人が介在する。自分の生き方やあり方を、食品を通じて表現している──それが生産者だと私は思うんですよ。いかにその思いを統合し、最大化して消費者に伝えるかが、私たちの仕事の肝だと思っています」。
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生活者/寄付者のみなさま
日々のお買い物が、
地域の未来を変える
現在の財務状況は決して安泰ではないなか、それさえも直接お客さまに発信しているそう。それは、格之進の商品を食べることで「会社に投資してくれている」お客さまに対して、状況をありのままに伝えることが大切だと思っているからです。
丹精込めてつくり上げたハンバーグを、千葉さんは「ひとつの小宇宙」と表現します。
「牛はお肉になった段階で死んでいると思うかもしれないですけど、じつはめっちゃ生きてるんですよ。だから熟成するんです。お肉だけでなく、たまねぎも、卵も、パン粉になった小麦も、みんな生きている。そして、それには人が介在する。自分の生き方やあり方を、食品を通じて表現している──それが生産者だと私は思うんですよ。いかにその思いを統合し、最大化して消費者に伝えるかが、私たちの仕事の肝だと思っています」。